Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

#今聴きたい歌手50選 第14回 ~ダニエラ=ファリー~

 今日は研究室インターンシップのミーティングがあり、研究室配属が近いことを思い知らされた反面、これからの研究テーマを考えたり、どのようにそれを調査していくか構想を練り始めたりする時が来たのだと感じた。まだまだ具体的な内容が定まらず曖昧なものを、どのように輪郭のはっきりとしたものに仕上げていくか…不安な要素も多いが、非常に楽しみなところである。

 趣味の方はというと、ついに所有しているCDの3分の1が某赤いレーベルのものになってしまった。放送用音源というのはなかなか魅力的なのである。一期一会の演奏、公演を聴いているような気分になり、まるで会場に居合わせているかのような錯覚まで含めて丸ごと楽しむことができる。このレーベルにハマり始めてから、かなりライブならではの高揚感に惹かれるようになった。これは実演に触れたときもそうだし、こういう音源を聴くときもそう。ライブではセッションの堅実なイメージから豹変し、一気に熱くなるタイプの指揮者もいて、新たな一面を見ることができる。中でも代表的なのは、ベームである。《エレクトラ》のウィーンでの1965年ライブを聴いたときは、フィナーレでの煽りに心の底から驚いたものだ。この赤いレーベルをOrfeo d'orという。

 

 さて、今日も歌手の紹介をしていきたい。今日も女声。今乗りに乗っているコロラトゥーラである。

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ダニエラ=ファリー(ツェルビネッタ、ナクソス島のアリアドネ)。ウィーン国立歌劇場(2014年10月)。*1

 ダニエラ=ファリー(1980-、オーストリア

 ダニエラ=ファリーはオーストリア出身のコロラトゥーラ・ソプラノである。ウィーン音楽大学出身で、ウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとなる前はウィーン・フォルクスオーパーのアンサンブルメンバーであった。*2 そのため、オペラだけでなく、オペレッタ経験も豊富で、それに裏打ちされたコミカルな演技力には定評がある。最大の持ち味はコロラトゥーラの技術の安定感と突き抜けるような最高音、そして先述の演技力である。ウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとなったのちに大躍進を遂げ、今ではウィーン国立歌劇場のコロラトゥーラといえばファリーといっても過言ではないと思う。中でも技巧的な歌唱が求められるツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)は彼女の当たり役中の当たり役であり、2014年6月のシュトラウス生誕150周年記念公演でも、フランツ・ウェルザー=メスト指揮で歌っている。*3 また、同じ年の10月のクリスティアンティーレマン指揮での公演はウィーン国立歌劇場150周年記念CDボックスにも収録されており、素晴らしいツェルビネッタを聴くことができる。*4

 ファリーの声は少し硬質ながら音に対して垂直に当てていくようなとても心地よいものである。線は基本的には細いが決して弱々しくなく、むしろしっかりとした芯を感じさせる。そのため、技巧的な面が強く求められるツェルビネッタの大アリアでも、全くぶれることなく、コミカルさと技巧を両方とも表現できるのである。私がファリーの歌唱に初めて触れたのはそれこそツェルビネッタだが、現代の歌手では間違いなくファリーがいちばんしっくりくるし、だからこそ近いうちに実演で触れておきたい歌手だとも思う。

 ファリーはツェルビネッタの他に、ゾフィーばらの騎士)、フィアカーミリ(アラベラ)といったシュトラウスのオペラの諸役をはじめ、ソフィー(ウェルテル)やオスカル(仮面舞踏会)、さらにはアミーナ(夢遊病の女)、さらにはアデーレ(こうもり)などの当たり役を持っている。フィアカーミリでの安定感には目を見張るものがあったし、アミーナでの最高音までムラなく出せる技術にも驚かされた。今いちばん脂の乗っている歌手だと思うし、今後も注目していきたい。ちなみにウィーン国立歌劇場では2006年から現在にかけて、フィアカーミリを33回、ツェルビネッタを24回、アデーレを20回も歌っている。*5

 

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ダニエラ=ファリー(ゾフィーばらの騎士、左)とステファニー=ハウツィール(オクタヴィアン)。ウィーン国立歌劇場(2010年12月)。*6

 ファリーは2020/21シーズンにウィーン国立歌劇場では、まず2020年11月のセバスティアン=ヴァイグレ指揮でフィアカーミリ(アラベラ)*7、次に12月にかけてベルトラン=ド=ビリー指揮でソフィー(ウェルテル)を歌う。*8 安定した歌唱が期待できる当たり役ばかりであるが、《アラベラ》ではウィーン訛りの歌いまわしが特徴的で、オットー=エーデルマンの後継と私が見なしているヴォルフガング=バンクルのヴァルトナー伯爵やミヒャエル=フォーレの奥行きのあるマンドリカ、さらにはファリーと同世代の声が良く通る軽いテノール、ミヒャエル=ローレンツのマッテオにも注目である。そして、《ウェルテル》のタイトルロールは宮廷歌手ピョートル=ベチャワが歌う。

 また、ファリーは年末から正月にかけては恒例の《こうもり》でアデーレを歌う(コーネリウス=マイスター指揮)。こちらはファリーのオペレッタ的な演技力にも注目が集まる。他のキャストを見ると、アイゼンシュタインには期待のオーストリア人若手テノール、イェーグ=シュナイダー、ファルケにも気鋭のオーストリア人でコミカルな役がとりわけ得意なクレメンス=ウンターライナー、ウィーンを代表するオクタヴィアンに成長したメゾ、ステファニー=ハウツィールのオルロフスキー侯爵と聴きどころ満載である。

 

 それではこの辺で。