Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

#今聴きたい歌手50選 第15回 ~クレメンス=ウンターライナー~

 だいぶ長いことブログを更新できていなかった。ご無沙汰してしまって申し訳ない。10月から大学も新学期を迎え、それなりに忙しくなってきた。さらにそれなりにコンサートのペースも戻りつつある。予定では11月のコンサートは5回、12月は3回で今年を終える。11月初旬のウィーンフィル、いまだに開催可否が出ていない状況だが、どうなっているのだろう…。などと思いながら、先日は期待の若手、カーチュン=ウォンの指揮で九響を聴いた。コロナ禍での自粛期間以降では初めての外国人指揮者だった。全体の流れを意識しつつも、左手を使った随所の工夫に驚かされ、何か新鮮な気分で楽しんだコンサートだった。

 さて、本当に久しぶりとなってしまったが、今回も歌手の紹介を続けていきたいと思う。今回はバリトン。ウィーン出身の期待のバリトン、期待のファニナルである。

f:id:Octavian_0224:20201027002525j:plain

クレメンス=ウンターライナー(エスカミーリョ、カルメン、右)とエレーナ=マクシモーヴァ(カルメン)。ウィーン国立歌劇場(2016年9月)。*1

 クレメンス=ウンターライナー(1972-、オーストリア

 クレメンス=ウンターライナーはウィーン出身のバリトンで主にハイバリトンとして活躍している。ファニナル(ばらの騎士)やパパゲーノ(魔笛)を当たり役としたゴットフリート=ホーニクなどに学び、*2 2005年にウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとなり、900以上の公演(うち21の新演出プレミエ)で85もの役を歌いこなしてきた。彼の当たり役の中にはファニナル(ばらの騎士)、ファルケ(こうもり)、パパゲーノ(魔笛)、マゼット(ドン・ジョヴァンニ)、メーロト(トリスタンとイゾルデ)、エスカミーリョ(カルメン)、アルベール(ウェルテル)、シャープレス(蝶々夫人)などが含まれている。*3

 堅実で折り目正しい歌唱がとりわけ魅力的で、声にはしっかりした低音の土台から発せられる立体感が伴っている。決して外連味たっぷりというわけではない、控えめながら個性的な性格付けはオペレッタに由来するものだと考えられる。それが生きてくる役が例えばファルケ(こうもり)であり、パパゲーノ(魔笛)であり、ファニナル(ばらの騎士)である。ファニナルはウィーン国立歌劇場のストリーミングで聴く機会があったが、持ち味の安定感のある歌唱とそこから繰り出される感情表現には目を見張るものがあった。中でも第2幕のオックスとオクタヴィアンの決闘まがいのシーンの直後の狼狽ぶりには納得させられるものがあった。性格付けはやりすぎると野暮ったくなるし、歌ばかりに集中してしまうとかえってその役を演じられない、バランス感覚をフルに活用させられるものだろうと素人ながらに思うのだが、ウンターライナーはそのバランス感覚が本当に素晴らしい歌手だと思う。開放的で立体的な、しかし少し独特な粘り気のある彼の歌唱と、ある意味整った、しかし整然とするだけでなく感情に走る部分もあるような平衡感覚のある表現は見ていて、聴いていてすんなりと抵抗なく触れることができるものであり、オーソドックスながら個性的な面もいろいろな部分に見られるという点で非常に魅力的である。

 さらにウンターライナーには声量もある。そのため、ワーグナーシュトラウスの大編成のオペラでも、存分に表現することが可能である。例えば私は《影のない女》のストリーミングを観る機会があり、ウンターライナーはその公演では使者として歌っていたのだが、第1幕などではその役上で冷静さを保った表現をしていたのに対し、第3幕で乳母(このときの乳母は藤村実穂子さんだった)を見捨てるような冷淡さを持った歌唱を堂々としていたのには震えるものがあった。強気で不気味さがあり、カイコバートの使者役にふさわしい歌唱だったと思う。こういう性格付けにはウンターライナーは唯一無二のものがあり、それがウィーンで長年定評のあるアンサンブルメンバーとなっている所以でもあるのではないかと私は考えている。

f:id:Octavian_0224:20201027005940j:plain

クレメンス=ウンターライナー(シャープレス、蝶々夫人)。ウィーン国立歌劇場(2009年9月)。*4

 ウンターライナーは今シーズンもウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとして歌う。9月にはベルコーレ(愛の妙薬)をすでに歌っている。*5 11月にはシモーネ=ヤング指揮でブリテンの《夏の夜の夢》に登場*6、同時にクリスティアンティーレマン指揮でのシュトラウスの《ナクソス島のアリアドネ》のハーレキン*7、その後はベルトラン=ド=ビリー指揮で《ウェルテル》のアルベール*8、年末年始はコーネリウス=マイスター指揮での《こうもり》でお得意のフランクを披露*9、来年2月と5月には《愛の妙薬》のベルコーレ*10、来年5月にはオロスコ=エストラーダ指揮で《カルメン》のダンカイロ*11などをウィーン国立歌劇場で歌う。今後さらに期待が高まるウィーンのバリトン、いつか生で聴く機会があればうれしい。

 

 それではこの辺で。