Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

#今聴きたい歌手50選 第10回 ~エリン=モーリー~

 ようやくレポート地獄から抜けたかと思えば、9月初めにはテストを控えていて、その後は実習もあるため、夏休みとは何か考えさせられる今日この頃である。もっと自粛期間中に何かしておけばよかったのかもしれないが、そうもいっていられないので、今日のような数少ないフリーな日を専門書の読書に充てるなどしている。

 さて、長い間ご無沙汰してしまって申し訳ないところだが、今日も久しぶりに歌手の紹介をしていきたい。《ばらの騎士》関連の歌手をこれから紹介していきたいと思うが、その第1弾として、この歌手である。

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エリン=モーリー(ゾフィーばらの騎士)。ウィーン国立歌劇場(2015年4月)。*1

 エリン=モーリー(アメリカ)

 エリン=モーリーは、最近では最も私の理想に近いゾフィーのひとりである。滑らかで直線的な声。高音もしっかり出せる。中音域から高音域の充実感がとりわけ素晴らしく、線は細いけれど存在感のある歌唱を聴かせてくれる。私が初めて聴いたのはウィーン国立歌劇場のストリーミングでのゾフィーばらの騎士)であった。全体的に息の長い歌唱で、ブレスコントロールにも技術力を感じた。また、感情表現もなかなかよく、その線の細い声に含みを持たせることができるのも彼女の魅力だと感じた。

 モーリーはリリックなレパートリーを得意としている現代を代表するコロラトゥーラだと私は思う。メトロポリタン歌劇場で主に活躍しているほか、ウィーン国立歌劇場バイエルン国立歌劇場、パリ歌劇場など、世界のトップクラスと呼ばれるオペラ座で舞台に立ち、聴衆を魅了してきた。彼女のレパートリーには、上記のゾフィーだけではなく、ツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)やコンスタンツェ(後宮からの誘拐)、フィアカーミリ(アラベラ)、ルチア(ランメルモールのルチア)、ジルダ(リゴレット)、夜の女王(魔笛)などの何役も含まれている。また、若くして卓越した才能の持ち主であることから、パリ歌劇場でのゾフィーばらの騎士)やコンスタンツェ(後宮からの誘拐)、ウィーン国立歌劇場でのジルダ(リゴレット)、ゾフィーばらの騎士)、ツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)、バイエルン国立歌劇場でのフィアカーミリ(アラベラ)とジルダ(リゴレット)、メトロポリタン歌劇場でのオリンピアホフマン物語)などは、いずれも各歌劇場の最年少デビューとされている。*2

 

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エリン=モーリー(ツェルビネッタ、ナクソス島のアリアドネ)。ウィーン国立歌劇場(2017年11月)。*3

  私は幸いにも彼女のツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)をウィーン国立歌劇場のストリーミングで観ることができた。ゾフィーでもそうだったが、声に張りがあるものの滑らかさがあり、可塑性がある声だと私は感じた。その可塑性のある声がツェルビネッタの長大なアリアでは生かされていた。軽さもあり、羽毛が舞うような歌いまわしだが、特に高音の伸びやかな歌い方には中音域とは異なる独特さがあり、最高音に達すると解放感とともに線の細さを際立たせるような可変的な歌声に魅了された。同じようなレパートリーを持っているコロラトゥーラ・ソプラノでも、ヒーラ=ファヒマのような柔らかく丸みのある声でもありながら、同時にダニエラ=ファリーのようなビブラート少なめで少し硬質な声でもあるのは、このふたりにはない魅力だと思う。こういっておきながら私はいまだにファヒマのツェルビネッタを聴けてはいないのだが、ゾフィーばらの騎士)などを聴く限りはそのように感じられる。

 モーリーは2020/21シーズンはウィーン国立歌劇場にかなりの回数登場する。まずは2020年11月にシモーネ=ヤング指揮で、ブリテンの《夏の夜の夢》のタイターニア役を歌う。*4 この役はモーリーがウィーン国立歌劇場でのこのオペラの新演出初演(2019年10月)でも歌った役である。*5 そのすぐ後には、クリスティアンティーレマン指揮でお得意のツェルビネッタ(ナクソス島のアリアドネ)が続く。このときのアリアドネ役には、シュトラウス・プリマとして私が最も注目している歌手であるカミッラ=ニールンドが起用されている。モーリーは2020年11月の他、2021年3月にもド=ビリー指揮でツェルビネッタ役を歌うことになっている。*6

 そして何と言っても注目は2020年12月のフィリップ=ジョルダン指揮での《ばらの騎士》。ジョルダンベートーヴェン交響曲全集でも共演した気鋭のメゾソプラノ、ダニエラ=シンドラムのオクタヴィアン、しっとりとした深みのある声が持ち味のクラッシミラ=ストヤノヴァのマルシャリンに、最近新しいオックス像を作り上げてきているギュンター=グロイスベックのオックス、ウィーンで堅実な歌唱で定評を得ているシュメッケンベッヒャーのファニナルという配役で、この豪華な配役は非常に楽しみである。なお、イタリア人歌手役には昨年カヴァラドッシ(トスカ)で宮廷歌手の称号を授与されたピョートル=ベチャワが抜擢されている。*7

 

 それでは今日はこの辺で。