Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

#今聴きたい歌手50選 第12回 ~ステファニー=ハウツィール~

 明日から実習のため、今日まで夏休みを謳歌しつつ、ドイツ語の勉強会をやり、オーストリアハプスブルク帝国時代に思いを馳せていた昼下がりだった。最近は説明的文章から文学作品に移行したこともあり、独特の訳しにくさや韻の美しさなどを感じながら読んでいる。そんなハプスブルク時代の終焉期に思いを寄せていたら、《ばらの騎士》の世界へ浸りたくなった。というわけで、今日も《ばらの騎士》を聴きながら、大好きなオクタヴィアンを紹介することにしたいと思う。

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ステファニー=ハウツィール(オクタヴィアン、ばらの騎士)。ウィーン国立歌劇場(2019年3月)。*1

 ステファニー=ハウツィール(アメリカ)

 ステファニー=ハウツィールは私がウィーンで聴いたオペラ歌手の第1声であった。私がウィーンで観た《ばらの騎士》のオクタヴィアンであったのである。ウィーン1001回目の《ばらの騎士》を見ることができてよかったし、その後私がこのオペラにハマるきっかけを作ってくれたと言っても過言ではない、そんな歌手であった。

 ハウツィールは2003年にフィリップ=ジョルダン指揮で、グラーツの歌劇場で作曲家(ナクソス島のアリアドネ)を歌ってデビューした。*2 2010年からはウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとなり、主にズボン役を当たり役としてきた。そんな彼女の最大の当たり役のひとつがオクタヴィアン(ばらの騎士)であり、他に作曲家(ナクソス島のアリアドネ)、オルロフスキー侯爵(こうもり)、そしてキャリア初期ではケルビーノ(フィガロの結婚)などを歌ってきた。一方で、女性役であるドラベッラ(コジ・ファン・トゥッテ)やアデライーデ(アラベラ)などにも定評がある。*3

 ハウツィールの持ち味は、その太めの立体的な声である。この太さのある力強い声は、とりわけオクタヴィアン(ばらの騎士)などのズボン役で凛々しさを表現するのに極めて適しており、私自身ウィーン国立歌劇場で観た《ばらの騎士》の公演でもそれは存分に発揮されていた。特に第2幕でのオックスとの対決シーンではオックスに対して血気盛んに挑戦する姿が印象に残っている。この太く凛々しい声はとりわけ中音域の充実からくるものだと私は思う。充実した中音域から、それを支えとして構造的、立体的に構築される、全体の流れを大切にした歌唱は、彼女の役作りに生きている。低音域がしっかりとしていることもあって、その上に乗せていくように紡ぎ出される高音域も、地に足着いた印象を受ける。その落ち着きもまた、彼女の魅力といえると思う。

 そして演技力である。特にオクタヴィアン(ばらの騎士)のような役では、女装してマリアンデル(小間使い)に扮している際のオペレッタ的な性格と騎士としての風格とカッコよさ、さらにゾフィーとの二重唱に見られるような、繊細さや情緒性、そしてある種の安心感をも包含している必要があると私は思うが、彼女にはそれが全て備わっているようだと実演のときに気付いた。この顔の演じ分けができる、喜歌劇的な要素がハウツィールの演技や歌いまわしの端々から感じられた。例えば第3幕のフィナーレのオクタヴィアンとゾフィーの二重唱では、ゾフィーの歌声を下から支えていて、ゾフィーを立てるような歌唱のように感じた。このときのゾフィーイスラエル人のソプラノで、若々しい声が持ち味のチェン=レイスであったが、その線の細さを際立たせつつ、外側からしっかりと包み込むようなハウツィールの歌声もまた、本当に素晴らしかった。

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ステファニー=ハウツィール(オクタヴィアン、右)とチェン=レイス(ゾフィー)。ウィーン国立歌劇場での《ばらの騎士》1000回目の公演(2019年3月21日)。*4

 ハウツィールがウィーン国立歌劇場にベースを置き始めてから11シーズン目が始まる。2020/21シーズンは、年末年始にウィーン国立歌劇場に登場し、フンパーディンクの《ヘンゼルとグレーテル*5 とヨハン=シュトラウスの《こうもり》で聴衆を沸かせる。両方の公演ともに指揮は気鋭のコーネリウス=マイスターである。特に《こうもり》は注目に値すべき公演であり、若手のリリックテノールとしてウィーンで定評があり、2020/21シーズンにウィーン国立歌劇場の《エレクトラ》でエギスト役を歌う*6 イェーグ=シュナイダーのアイゼンシュタイン、ファニナル(ばらの騎士)やマゼット(ドン・ジョヴァンニ)などでコミカルさが光るクレメンス=ウンターライナーのファルケ、そして何より昨日も紹介したウィーンのコロラトゥーラ、ダニエラ=ファリーがアデーレを歌う。*7

 ハウツィールは2016年に《ノスタルジア》というアルバムを出している。私自身まだ入手できていないが、近いうちに必ず聴きたいと考えている。*8

 それではこの辺で。