Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

#今聴きたい歌手50選 第7回 ~ヴァレリア=サヴィンスカヤ~

 今日は朝から結構な雨で、ヴェルディの《オテロ》を聴きたくなるような天気である。オテロの破滅し行く嵐、第1幕冒頭の嵐…。このオペラ全体がイアーゴのコントロール下における「嵐」であるのは間違いない。ヴェルディは起伏をうまく用いて、オテロの心の揺れ動き、イアーゴの皮肉のきいたパッセージ、翻弄されるデズデモナなどをうまく表現している。私の中で理想のオテロはやはりプラシド=ドミンゴ。彼ほど情感溢れるオテロを私は知らない。彼は声の力強さは勿論あるけれど、やはり感情表現の丁寧さは他の追随を許さない。今はズービン=メータの指揮、ドミンゴオテロ、ブルゾンのイアーゴ、トモワ=シントウのデズデモナというキャストで、ウィーン国立歌劇場のライブ盤(1987年)を楽しんでいる。

 

 さて、今日もまた若手歌手を紹介したいと思う。かなり今後が期待できる、かなり若手を紹介したい。実は私がこの歌手の声を知ったのは、先日のウィーン国立歌劇場の「若手歌手のガラコンサート」だった。

f:id:Octavian_0224:20200706134103j:plain

ヴァレリア=サヴィンスカヤ(ベルヴェデーレ・オペラ・コンペティション、2019)*1

 ヴァレリア=サヴィンスカヤ(1998-、ロシア)

 モスクワ出身の超若手。2019年のベルヴェデーレ・オペラ・コンペティションにおいて、21歳の若さで優勝。*2 今後が非常に楽しみなソプラノである。

 私が彼女の声に触れるきっかけとなったのは、ウィーン国立歌劇場のストリーミング「若手歌手のガラコンサート」である。彼女はこのガラコンサートでモーツァルトの歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》のアリア《岩のように動かず》を見事に歌いこなした。*3 フィオルディリージの難しいアリアだが、実に見事な表現で、このソプラノが(若手であるのは知っていたが、)こんなにも若い歌手だとは思いもしなかったほどだ(私が「岩のように動かず」という状態になってしまったほどだ)

 彼女の声を聴きながら、彼女の魅力は何だろうと考えたとき、やはり声域の広さと声量コントロールの技術だと思う。この技術がしっかりしていると、経験を積んでいくにしたがって感情表現などをうまく重ね合わせやすくなり、大物歌手として活躍できるのは間違いないと個人的に考えている。彼女の場合、声量は十分にあり、その歌唱にゆとりも見られる。フィオルディリージの難しいアリアであっても、転がすような歌いまわしから奥行きを広げて開放的な歌唱を聴かせてくれたので、本当に初めて聴いたときは驚いた。突き抜けるような高音と柔らかく奥行きがある響き(ロシア人の歌手には、オルガ=ペレチャッコやオルガ=ベスメルトナを始めとして、響きが柔らかい人が多い気がする)、それにフラットながら美しい低音も持ち合わせている。全体的には柔らかさのある、聴きやすい感じのスピントで、ベスメルトナを彷彿とさせる。ただ、ベスメルトナよりも冷たい感じを受ける美声である。フォルテで見られるような強さと、ピアノで見られるような繊細さがあり、これに感情表現をうまく絡められれば、間違いなく飛躍すると思う。

 キャリアはまだ始まったばかりの新星だが、ウィーン国立歌劇場でのデビューは何とティーレマン指揮のR. シュトラウス影のない女》(2019年10月)であった。*4 また、これからの予定としては、例えばベルリン・ドイツ・オペラでは、2020年10月のパミーナ(魔笛、ちなみに夜の女王は私の推しのコロラトゥーラ、ヒーラ=ファヒマ*5、2021年4月のフラスキータ(カルメン*6を始めとして、さまざまな役を歌うことになっている。パミーナ以外はわき役ではあるが、こうした役で経験を積んで、例えば5年後、10年後などに主役で主に歌うようになってからの基礎を作っていってほしいソプラノである。少なくとも私が聴く限りは技術力には目を見張るものがあり、これからこの技術をオペラ座という場所で、演技も絡めながら、どのように生かしてくれるのか、非常に楽しみである。

 彼女の声を聴きたい方はこちらから。5分30秒過ぎから歌い始める。

youtu.be 

  これを聴くだけでも、今後期待したいソプラノなのがわかる。ぜひ生で一度聴いてみたい歌手のひとりである。

 それでは今回はこの辺で。