Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

フィリップ・ジョルダンのベートーヴェン交響曲全集

 ついにウィーン国立歌劇場のストリーミングも1日の《ファルスタッフ》をもって終わり、ウィーン国立歌劇場も夏休みに入った。もう2020年が半分も終わってしまったかと思うととても感慨深いものがある。2月までは演奏会に普通のように行き、遠方から来られたTwitterのフォロワーさんとも出会いがあり、演奏会後に楽しく飲んで音楽談議に花を咲かせていた。ところが、3月に入ってからは演奏会を一度も経験することもなく、今に至っている。ただ、このコロナ禍における生活も非常に充実していたのは言うまでもない。遠方にいる私と同年代のフォロワーさんたちとZoomで音楽について語り合ったり、これは現在も継続中だが、指揮者の先生に《ばらの騎士》について教えていただいたり、フォロワーさんとドイツ語の勉強会をしたり…。おかげで《ばらの騎士》に関してはますます好きになったし、いろいろな知識を蓄え、楽譜を眺めながら音楽を聴くなどしている。このオペラに関する興味は尽きないだろう。また、ドイツ語も今まで以上に単語や文法を学んだり、それをスピーチだけでなく、オペラなどでドイツ語を聴いたときに生かしてみたり…。すごく有意義な時間であり、関わってくださる方々に本当に感謝したい。

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フィリップ・ジョルダン(パリ国立歌劇場)。*1

 さて、そんな中、やはりベートーヴェンの音楽についても最近は触れる機会が多い。2020年は生誕250周年のアニヴァーサリー。それまで実はあまり聴いてこなかった作曲家だが、これを機に聴いてみようと思って、2月の中頃にサイモン・ラトル指揮、ウィーンフィルベートーヴェン交響曲全集を手に入れた。2月の下旬に誕生日が来たときは、高校時代の友人と一緒に街へ出て、久しぶりに顔を合わせた。彼らと別れた後、私は衝撃的な出会いをすることになる。

 

 それが、このベートーヴェン交響曲全集だった。2020年からウィーン国立歌劇場音楽監督に就任するフィリップ・ジョルダンの指揮、オケは彼が長年首席指揮者を務めてきたウィーン交響楽団。この9月から音楽監督に就任するというのに、私が完全にノータッチだった指揮者である。*2実はこの全集の存在は発売当時から知っていて、いつか聞いてみたいと思ってはいた。その交響曲全集に、私は帰り際に吸い寄せられるように入ったタワレコで出会ってしまうこととなる。

 正直買うかどうかは非常に迷った。価格もそこまで安いわけではないし、迷った。でも、何となく運命に近いものを感じながら、私は気づけばそれをクレジットカードで決済していた。

 

 しかし、購入してよかったと心底思わせるベートーヴェンだった。私が大好きな音楽づくりで、ここまで直球でついてくるような演奏はなかなかない。そもそも私の好きな演奏というのは概して、次のように言えることがほとんどである。

・指揮者独自の工夫が見られるが、決してわざとらしさのないもの。

・テンポは比較的で速めで、推進力が伴っているもの。

・こってりとどっしりと重すぎず、かといって軽すぎることがなく、適度な存在感を持っているもの。

 最後の条件は正直、私の感覚の要素が強く説明しづらいところだが、言ってみればひとつひとつの音に丁寧に当たって音楽を作っている、という感じだろうか。ジョルダンはこのすべての要素を持っていて、実に「好みドストレート」な演奏だったのである。

 

 ジョルダンベートーヴェン交響曲全集を購入して、まず初めに聴いたのが9番だった。63分の速い演奏である。第1楽章から圧倒されるような推進力を感じることができ、本当に前向きな演奏だった。初めは速すぎるのではないかと思ったが、それでもぐいぐいと彼のベートーヴェンの世界に引っ張りこまれるような、本当に不思議な響きだった。非常に前向きな音楽づくりで、心の底から元気をくれるような演奏だと思う。

 また、推進力の塊のような演奏でありながらも、きめ細やかさが光っている。細部まで微妙なアクセントや強弱表現をそれとなく忍ばせていて、全曲聴くとフレーズごとに、例えば繰り返しであっても1回目と2回目では、ささやかな違いがあって、全く押しつけがましさのない、非常に聴きやすい演奏だった。

 それに、彼の魅力はぐいぐいと手綱を絞るような速さがあっても、決して軽薄にならないところだと思う。ひとつひとつのフレーズ、音に彼の解釈を入れ込んでいて、聴いていてその響きに新鮮さを覚えたほどだった。だから、初めて聴いたときは「新鮮な響き」という言葉を何度も用いてツイートした。そして、彼はきちんと低弦を鳴らすので、重さもないわけではない。確かにネルソンスやバーンスタインなどに比べたらあっさりしすぎているかもしれないが、きちんと低音を鳴らすことで「ただ速いだけの演奏」からは一線を画し、深みが増した、情緒性も持ち合わせた演奏になっている。

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気づいたら決済を済ませ、ジョルダン / ウィーン交響楽団ベートーヴェン交響曲全集を持ち帰っていた。運命的な出会いだった。

  私はそれから1週間のうちに今まで聴いたこともなかったベートーヴェンの4番なども含め、すべての交響曲を聴いてしまうことになる。その新鮮な響きにひたすら圧倒されながら、ジョルダンベートーヴェンに入り込みながら、オペラも聴かずにベートーヴェンばかり聴いていた。それぐらい私にとっては衝撃的な出会いだった。

 私がジョルダンを聴くようになって、明らかにそれまでそれほど進んで聴こうとしなかったベートーヴェンの音楽に進んで触れようとするという変化が生まれた。そこからベートーヴェンはよく聴くようになった。でも、そのほとんどはジョルダン交響曲なのだが…(笑)。

 例えば、3番はそれまであまり興味をひかない交響曲だった。でも、ジョルダンで聴きなおしてみると、第1楽章から溢れんばかりの推進力に圧倒され、第2楽章では繊細な葬送行進曲に、他の楽章との対比の面白さを感じられた。また、第3楽章の駆け抜けるような軽快さと第4楽章の勢いと風格のある堂々とした解釈には驚かされた。

 そんな風に、聴けば聴くほど、ジョルダンの創意工夫が随所に見られ、聴いていると本当に楽しくて楽しくて仕方ないのである。テンポも速め、低音域もしっかりしているので軽くなりすぎない。押しつけがましさの全くない、すんなりと入ってくる自然体で美しい演奏。弦のキレも素晴らしいが、ショルティのように硬くなりすぎることもない。きめの細かいアンサンブルと深みのあるティンパニ。快活で前向きだが、同時に折り目正しさもある丁寧な演奏。ここまで惚れる演奏はそうそうないと思う。

 

 そういえば、YouTubeジョルダンベートーヴェンが上がっていたので紹介したい。彼の指揮ははじめ見たときは相当驚いたのだが、今から見返してみるとすごくわかりやすい。豪快で暴れているように見える指揮だが、実はアインザッツの出し方やニュアンスの伝え方が本当に秀逸なので、ぜひご覧いただきたいと思う。特にこのベートーヴェン7番、第4楽章のコーダでの弦に対する指示などはなるほどと思わせられることも多かった。

 

youtu.be

 ジョルダンは2020/21シーズンより、ウィーン国立歌劇場音楽監督に就任する。*3彼はそのオープニングに《蝶々夫人》の新演出初演を選んだ。これまでの藤田嗣治演出に代わって、アンソニー・ミンゲラが演出を担当する。*4ドイツ・オペラを選ぶと思っていたので、私にとってはこのチョイスは意外だった。これからウィーン国立歌劇場とどのような関係を築いていくのだろうか。非常に楽しみである。

 ジョルダンウィーン国立歌劇場を率いて、2021年に《ばらの騎士》で来日することになっている。*5このことで彼が一段と注目されることは間違いない。私もぜひ彼の演奏を、コンサートでもオペラでも生で聴いてみたい。具体的なことは決まっていないが、正直言うと、ジョルダンのためにウィーンに遠征することまで考えている。

 

 それでは今日はこの辺で。ストリーミングも終わってしまったので、今日こそ早く寝て、明日からは計画的に頑張りたい。