#今聴きたい歌手50選 第8回 ~マルガリータ=グリシュコヴァ~
私の住んでいる福岡市も大雨に見舞われ、昨日は近所も避難勧告手前までいったようだ。この時期の大雨は毎年のようにあり、私も一昨年は大雨の中午前中に自転車で学校へ行き、行った先で午後の授業の休講を知らされたり、昨年は水泳の大会が2日目中止になるなど散々であった。今年はというと、バイト先から電車で帰ろうとしたら、そこで電車が止まったため、バイト先の同僚に車で送ってもらった…。いやはや、本当に災難なことである。もう少し大人しくしていただけたらとは思うのだが、自然のことなので仕方ない。
今はメータ指揮、ウィーンフィルでマーラーの交響曲第2番《復活》を聴いている。歌手はソプラノがコトルバス、アルトがルートヴィヒでこちらも大好きな歌手ばかり。メータの情熱的な音楽づくり、それでいて均整の取れた合唱、コトルバスとルートヴィヒの暖かみのある歌唱。どこをとっても素晴らしい演奏だと思う。
さて、今日も私が今聴きたい歌手を紹介したい。なぜか女声が多いので、今日も女声を紹介したいと思う。
マルガリータ=グリシュコヴァ(1987‐、ロシア)
今日はロシア出身のメゾソプラノ。サンクトペテルブルク出身。2008年にルチアーノ=パヴァロッティ・コンクールで入賞するなど、数々のコンクールで入賞し、2011年に《エフゲニー・オネーギン》のオリガ役でカナダのケベック歌劇場に初登場。2012年からはウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとなり、ケルビーノ(フィガロの結婚)、イダマンテ(イドメネオ)、ドラベッラ(コジ・ファン・トゥッテ)、ロジーナ(セヴィリアの理髪師)、アンジェリーナ(チェネレントラ)、イザベッラ(アルジェのイタリア人)などのモーツァルトやロッシーニを中心に活躍している。また、ウィーンでもお国もののオリガ(エフゲニー・オネーギン)も2017年から2019年にかけて歌った。また。2018年にはウィーン国立歌劇場の《カルメン》のタイトルロールを歌い、絶賛された。ウィーンを中心に活躍しているが、バイエルン国立歌劇場やチューリッヒ歌劇場など、さまざまな舞台で活動している。2016年と2018年にはウィーン国立歌劇場の来日公演にも参加している。*2
さて、そんなグリシュコヴァを初めて聴いたのは、ウィーン国立歌劇場のストリーミングの《セヴィリアの理髪師》のロジーナ役であった。彼女の声は暖かみのある美声で、とりわけ中音域の滑らかさや充実感には驚かされた。このときのアルマヴィーヴァ伯爵はフローレスが歌ったのだが、もちろん彼の歌唱が第2幕の大アリアも含めて際立って素晴らしかった。しかし、忘れてはいけないのが、グリシュコヴァの技術ーとりわけコロラトゥーラの技術ーに裏打ちされた堅実な歌唱だった。
そして今回、ウィーン国立歌劇場のストリーミングで観た「若手歌手のガラコンサート」で彼女の歌声を再び聴くことができた。彼女の声はいつ聴いても瑞々しく、しかしながら明晰さを伴っている。彼女の暖かみのある声は、先述したようにとりわけ中音域でその威力を発揮する。ロッシーニを得意としているだけあって、もちろんその歌声は軽妙である。速いパッセージも難なくこなす。それと同時に、声の暖かさが独特の声の深みを醸し出している。軽妙さと暖かさ、滑らかさ、それに輪郭の柔らかさがある、耳に心地よい声だなと素直に思わされた。さらに、ブレスコントロールが卓越していた。そのため、低音も全く潰れることなく、むしろ丁寧で伸びやかな響きを堪能することができた。総合すると、彼女の声には知性的な面と妖艶な面の両方が備わっているのである。
そのため、彼女のレパートリーには、確かにモーツァルトやロッシーニは中心ではあるけれど、カルメンも含まれている。カルメンの自由さと妖艶さを備えた役作りをできるのに十分な能力が備わっているといえる。モーツァルトでも、先に述べたケルビーノ(フィガロの結婚)は彼女の最大の当たり役のひとつだが、そこでは芯のある若々しさが最大限に生かされている。また、ロジーナ(セヴィリアの理髪師)では、気品のある艶やかな、そして軽妙な歌いまわしがとりわけ魅力的であった。
グリシュコヴァは今私がいちばん聴きたいメゾソプラノのひとりである。技術力に確かなものがある彼女の、さらなる活躍がとても楽しみである。「歌うことなしには生きていけない。歌うのが大好きだ」と語る*3 グリシュコヴァが、今後いたるところで素晴らしい歌唱を聴かせてくれることを期待している。
今日は少し短いかもしれないが、この辺で。