Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

《ばらの騎士》組曲について

 本当に久しぶりのブログとなってしまった。12月は何だかんだバイトが忙しく、過去いちばん働いたかもしれない。幸い教育系のバイトなので、脳は活性化したようで、音楽を聴いているときなどは特に、普段気づかないことにも気づくことが多くなった。そんな中で、《ばらの騎士》を聴いているととても面白い。

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ギュンター・グロイスベック(オックス男爵)とエリン・モーリー(ゾフィー)。無観客となった昨年12月のウィーン国立歌劇場の公演のストリーミングから。シェンク演出。指揮は今期から音楽監督に就任したフィリップ・ジョルダン*1

 ということで、九響2月14日名曲コンサートでは《ばらの騎士組曲が演奏されるので、その話を少ししたい。そもそも《ばらの騎士組曲という作品はオペラを見通した上で言うと「構成がイマイチ」な感覚が個人的にはあるのだが、それでも音楽が魅力的なことに変わりはなく、その日は銀のばらを献呈するのがシュトラウスサウンドを全身に浴びるのが楽しみである。

 

 1992年にプレヴィンがウィーンフィルと録音した以下の音源をもとに、話を進めていきたい。以下の時間表示はこの音源に対応している。

youtu.be

 早速構成である。

  1. 0.00~ 第1幕 前奏曲
  2. 3.03~ 第2幕 ばらの騎士の到着~銀のばらの献呈
  3. 8.15~ 第2幕 オクタヴィアンとゾフィーをヴァルツァッキとアンニーナが取り押さえるシーン(カオスな音楽)
  4. 8.58~ 第2幕 オックス男爵のワルツ(幕切れ)
  5. 13.31~ 第2幕 冒頭
  6. 14.05~ 第3幕 マルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱~オクタヴィアンとゾフィーの二重唱
  7. 19.19~ 第3幕 オックス男爵の退場シーンのワルツ
  8. 21.09~ 終結

 すべての場面は切れ目なく続くものの、その場面の切り替わりは比較的わかりやすい構成となっている。

 

1.第1幕前奏曲

 ホルンによる、青年貴族オクタヴィアンの上昇音型の動機から始まる前奏曲である。それと絡み合うように弦が元帥夫人マルシャリンの下降音型の動機を奏する。オクタヴィアンとマルシャリンは愛人関係にあり、この前奏曲は愛の一夜の情景を描いたものである。2人のモチーフが絡み合う音楽がホルンの強奏で最高潮(fff)に達し、弦の連符とスラーによるかなり緩やかな下降音型、ホルンとファゴットのオクタヴィアンのモチーフが登場する。その後落ち着いた弦中心の音楽へと移り、次第に爽やかな朝の情景へとオペラでは繋がっていく。

2.第2幕 ばらの騎士の到着~銀のばらの献呈

 第1幕ではマルシャリンの従兄のオックス男爵がマルシャリンの邸宅を訪ね、自身の婚礼のために「銀のばら」を届ける使者を選んでほしいと依頼する。マルシャリンはこの「ばらの騎士」にオクタヴィアンを選定する。オックス男爵の結婚相手は、成金貴族ファニナルの一人娘のゾフィーである。

 この場面の音楽は、第2幕冒頭から続く婚礼前のきらびやかな音楽である。オクタヴィアンの上昇音型がどんどん近づき、クレッシェンドしていくことで「ばらの騎士」オクタヴィアンの到着が近づいていること、婚礼前のゾフィーの落ち着かない心持ちが表現されている。molto cresc. がかかった後のトゥッティの ff でオクタヴィアンが登場する。一気に音楽が静まった後、ハープやチェレスタで装飾(銀のばらのモチーフ)が施された厳かな音楽のもと、オクタヴィアンがぎこちなく口上を述べ、ゾフィーが答える場面になる。銀のばらがオクタヴィアンからゾフィーに渡ると、オクタヴィアンはゾフィーに一目惚れしてしまっている。オクタヴィアンは一目惚れしてしまった自分の気持ちを、ゾフィーは結婚の喜びを歌いあげるが、二重唱は "den will ich nie vergessen bis an meinem Tod"(このときを私は死のときまで決して忘れない)という同じ歌詞で締めくくられる。

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第2幕 銀のばらの献呈シーン。ステファニー・ハウツィール(オクタヴィアン、右)とチェン・レイス(ゾフィー)。ウィーン国立歌劇場での《ばらの騎士》1000回目の公演(2019年3月21日)。*2

3.第2幕 オクタヴィアンとゾフィーをヴァルツァッキとアンニーナが取り押さえるシーン(カオスな音楽)

 銀のばらの献呈の後登場したオックスは、相手の家柄が成金貴族ということもあって、かなり横柄な態度をとる。品のないオックス男爵の振る舞いにゾフィーは早くも失望し、オクタヴィアンも怒りを隠せないでいる。オックス男爵の退場後、ゾフィーはオクタヴィアンに助けを求めるが、「私たちふたりのために("für uns zwei")」ゾフィーを守るとオクタヴィアンが言うので、ゾフィーは感動しふたりは抱き合う。

 この場面の音楽は、抱き合ったふたりをオックス男爵の手下となったイタリア人のゴシップ屋、ヴァルツァッキとアンニーナが取り押さえる場面のもので、非常にカオスなものである。カオスな音楽が静まった後、オックス男爵の足音のような低音の「ダン、ダン」というモチーフが奏され、オックス男爵が登場する。

4.第2幕 オックス男爵のワルツ(幕切れ)

 登場したオックス男爵に対してゾフィーは申し開きができないので、オクタヴィアンが代わりにゾフィーの気持ちを述べるが、オックス男爵は取り合わない。そこで、オクタヴィアンはついに剣に手をかけ、オックス男爵との決闘まがいの騒ぎになる。剣がからきしなオックス男爵は少し突かれただけで悲鳴を上げ、騒ぎが大きくなってしまう。そこにファニナルが登場、ゾフィーも彼に結婚したくないと述べるが、ファニナルは彼女を激しく叱責する。オクタヴィアンは非礼を詫びて退場、ゾフィーも侍女マリアンネに促されて退場した後、ファニナルはオックス男爵に詫びて酒を振る舞う。

 この場面の音楽は「オックス男爵のワルツ」として知られる有名なもので、ヨハン・シュトラウスの弟ヨーゼフ・シュトラウスが作曲したワルツ《ディナミーデン》作品173のモチーフが用いられている。酒ですっかり機嫌が戻ったオックス男爵が "Ohne mich, jeder Tag dir so bang. Mit mir, keine Nacht dir so lang"(わしがいなければ毎日が君には不安、わしといればどんな夜も長くない)と歌う。そこにアンニーナがマリアンデルという女性から会いたいという手紙を持ってくる。マリアンデルとは第1幕でオクタヴィアンが女装して元帥夫人マルシャリンの召使の田舎娘に扮していた時の名前であるが、オックス男爵は「彼女」がオクタヴィアンであることには気づいていない。アンニーナが手紙をヴァイオリンの美しいソロに乗せて読み上げるが、それがオクタヴィアンの上昇音型であることも非常に興味深い。すっかり機嫌のよくなったオックス男爵は陽気にワルツを歌い、第2幕は幕切れとなる。

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ヴォルフガング・バンクル(オックス男爵、ばらの騎士)。ウィーン国立歌劇場(2019年3月)。*3

5.第2幕 冒頭

 音楽は「ばらの騎士の登場」直前の音楽に戻り、次の第3幕の音楽と繋いでいる。

6.第3幕 マルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱~オクタヴィアンとゾフィーの二重唱

 3人が三者三様の思いを独白する複雑な三重唱とそれに続く比較的単純な二重唱によって、《ばらの騎士》のオペラはフィナーレを迎える。

 第3幕前半は怪しげな居酒屋でのオックス男爵とマリアンデルの逢引のシーンであり、結局オクタヴィアンの策略によって「スキャンダル」が表沙汰になったため、ファニナルはオックス男爵とゾフィーの結婚を一方的に破棄する。大騒ぎとなっているところに元帥夫人マルシャリンが登場し、オックス男爵に引くように言う。また、自身もオクタヴィアンとの別れが、予感していたものとはいえ(これが有名な第1幕のモノローグで歌われる)、こんなにも早く訪れたことを悲しみつつ、ゾフィーにオクタヴィアンを譲る。(最終的には引くが)引き際の悪いオックス男爵とあっさり引くマルシャリンの姿の対比が興味深い場面である。

 さて、組曲に使われている三重唱では、オックス男爵が去った後、別れを悲しみつつ引かなければならないと決意するマルシャリン、マルシャリンの潔さに当惑しつつゾフィーへの愛を誓うオクタヴィアン、事態を呑み込めないでいるがオクタヴィアンの求愛を受け入れようとするゾフィーの、非常に複雑な心情が歌われている。また、この場面では分厚いオーケストラによってそれぞれの歌手のパートが支持されており、歌手含めた「交響詩」的な音楽であるため、恍惚とするような美しい音楽であるが、歌詞は非常に聴き取りづらい。マルシャリンが "In Gottes Namen"(神の御名において)と歌った後、マルシャリンは退場し、オクタヴィアンとゾフィーのみ残る。

 それに続く二重唱との間には、26小節間オーケストラのみで奏される部分があり、複雑な二重唱と比較的単純な二重唱とを繋いでいる。マルシャリンが引いた後、幸福感に満たされたふたりは夢ではないかと二重唱を歌い、第3幕は幕となる。二重唱の間もハープとチェレスタによる「銀のばらのモチーフ」の装飾が印象的である。

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第3幕三重唱。クラッシミラ・ストヤノヴァ(マルシャリン、右)、ソフィー・コッシュ(オクタヴィアン、中)、モイツァ・エルトマン(ゾフィー、左)。2014年のザルツブルク音楽祭(クプファー演出)。*4

7.第3幕 オックス男爵の退場シーンのワルツ

 第3幕で計略にはまったオックス男爵が、マルシャリンに促されて退場するシーンのワルツである。居酒屋の店主や御者、給仕、子供たちなどに追い立てられながらオックス男爵が従僕と逃げるように去っていく場面。舞台上ではマルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィーの神妙な面持ちと、追い立てる店主や御者などのせわしない感じ、早々と逃げ出そうとするオックス男爵の対比が非常に印象的である。オペラでは、オックス男爵が退場すると、舞台上に残ったマルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱へと徐々に場面が移っていく。

8.終結

 組曲にのみ見られる終結句はオックス男爵の退場シーンのワルツを引き継ぎ、ウィンナ・ワルツのコーダのような形である。タイトルロールのオクタヴィアンのモチーフが登場し、華やかに曲が締めくくられる。

 

 以上このような構成となっている。楽曲はかなり美しく可憐なので、ぜひ一度聴いていただきたい。残念ながら予定されていたサッシャゲッツェルは来日できなくなってしまったが、山響常任指揮者であり、ウィーン・フォルクスオーパーで年末年始の《こうもり》を振った実績もある阪哲朗さんの九響との初共演に期待したい。*5

 

 それではこの辺で。

 

参考文献

1. ばらの騎士 - Wikipedia

2. ばらの騎士 | シュトラウス | オペラ対訳プロジェクト