Eine wienerische Maskerad' - und weiter nichts?

Oper, Wiener Walzer, ein bisschen Symphonie, usw.

#今聴きたい歌手50選 第16回 ~ミヒャエル=ローレンツ~

 すっかりご無沙汰してしまった。最近は学校、バイトにコンサートと忙しい生活を送っていた。中でも印象に残っているのが今月初旬のウィーンフィルの北九州公演。ウィーンフィルは本国がロックダウン、出発前日にテロが起こった中で来日した初日。その日のメインのチャイコフスキー6番《悲愴》はテロの犠牲者に捧げられ、ウィーンフィルとマエストロ・ゲルギエフ、そして聴衆は黙祷を捧げたのであった。この日のコンサートはとりわけいまだ短い人生の中でも記憶に残るものになると確信している。コンサートで久しぶりに泣いた。《悲愴》の第4楽章が静かに閉じられたとき、ゲルギエフの短い指揮棒が下りるまでの静寂と余韻、そこでの心臓の鼓動を私は一生忘れることはないだろう。

 

 さて、久しぶりに歌手紹介、今日はウィーンの名脇役テノールを紹介したい。

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ミヒャエル=ローレンツ(エギスト、エレクトラ)。チューリヒ歌劇場(2019年)。*1

 ミヒャエル=ローレンツ(1978-、ドイツ)

 ミヒャエル=ローレンツは現在ウィーンで特に活躍しているテノールである。ベルリン響の首席トランペット奏者としての経験も持ち、2006年から歌手として活動を始めた。*2 主に性格付けの必要な役柄を得意としており、その皮肉の込められた性格付けと突き抜けるような鼻にかかった声は、往年の名脇役ハインツ=ツェドニクを彷彿とさせる。当たり役はさまざまあって、そのすべてにおいて持ち前の性格付けを存分に発揮しており、私はローレンツがツェドニクの後継となりうるのではないかと考えている。軽いものの突き抜けるような声で、特に高音に強い。また、演技力にも定評があり、コミカルな役どころではアドリブで独特のアクセントを加えることもできる。私がウィーン国立歌劇場のストリーミングで観た《ホフマン物語》のフランツでは口笛を吹いていたが、それがローレンツのフランツ像の構築に一役買っていたのは言うまでもない。

 私が観た中でとりわけ当たり役だと感じたのはエギスト(エレクトラ)、アンドレス/コシュ二―ユ/フランツ/ピティキナッチョ(ホフマン物語)、ヴァルツァッキ(ばらの騎士)、エルメール(アラベラ)など。

 エギストは今年のザルツブルク音楽祭ウェルザー=メスト指揮で歌っていたが、不吉な予感を感じていつつも自らの運命について全く気付いていないこの役を演じるのに、皮肉の込められた性格付けはある意味似合っているように感じた。この役は登場時間は短いわりに《エレクトラ》の物語ではかなり重要な役であり、性格テノールが歌うエギストを初めて聴いて新鮮さがあった。

 実演で触れることができたのがウィーン国立歌劇場での2019年3月の《ばらの騎士》でのヴァルツァッキ。ヴァルツァッキはツェドニクで予習をしていっただけあって、実演で聴いたローレンツのヴァルツァッキがあまりにもツェドニクを感じさせるのには素直に驚いた。第1幕でマルシャリンに取り入ろうと強引に売り込むところ、第3幕でファニナルが到着したときにオックスを裏切るところ…。その線の細い固有の声は、聴けばそれがローレンツのもので分かるものであった。また、突き抜けるような声で早口で歌うので、ヴァルツァッキの「うるさいイタリア人」という特徴にも完全にマッチしていて素晴らしかった。コミカルなオペレッタ的な演技もここでは存分に発揮され、絶妙にためたり歌いまわしを工夫したりといった技も垣間見えた。ウィーン国立歌劇場ではこのプロしかヴァルツァッキを歌っていない*3が、今後もっとこの役を歌ってほしいと思わせられるような歌唱と演技であった。

 

 ローレンツは今シーズンは9月にウィーン国立歌劇場で代役として若い従僕(エレクトラ)を歌った*4が、今後も注目される役どころを歌う。年末年始のヨハン=シュトラウスの《こうもり》ではコーネリウス=マイスター指揮でアルフレートを歌い*5、来年6月にはモーツァルトの《後宮からの誘拐》に登場する。*6 特にアルフレート(こうもり)に関しては得意にしてきた役であり、オペレッタで持ち前の性格付け、演技力がどう生かされるのかは見ものである。

 

 それではこの辺で。